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2016年4月22日更新
2016年1月20日(水曜日)12時半?
お茶の水女子大学 カンファレンスルーム
司会(吉田裕亮、お茶の水女子大学賞「第3回 湯浅年子賞」兼「第1回黒田チカ賞」選考委員会委員長、お茶の水女子大学理学部長):
それではただいまよりお茶の水女子大学賞、第3回湯浅年子賞ならびに第1回黒田チカ賞の授賞式を始めます。
最初は第3回湯浅年子賞 金賞です。本学の室伏学長より賞状の授与をいたします。
【湯浅年子賞 金賞:御手洗容子 氏】
表彰状
御手洗容子 殿
お茶の水女子大学賞
業績「高温構造材料に関する基礎研究及び女性研究者支援に対する貢献」
あなたの標記の自然科学の諸分野における業績は著しく顕著であり、国内あるいは国外において既に高い評価が確立していると認め、ここに、第3回湯浅年子賞金賞を送ります。
平成28年1月20日
dafabet官网_dafabet手机版-购彩网重点推荐 お茶の水女子大学長 室伏きみ子
幅 淳二 氏(Director, Toshiko Yuasa Lab.)より、副賞(メダル)授与
【黒田チカ賞:五十嵐悠紀 氏】
表彰状
五十嵐悠紀 殿
お茶の水女子大学賞
業績「コンピュータを用いたインタラクティブ3次元形状モデリングに関する研究」
あなたの標記の自然科学の諸分野における業績は著しく顕著であり、将来当該分野において国際的に活躍する女性になると認め、ここに第1回黒田チカ賞を送ります。
平成28年1月20日
dafabet官网_dafabet手机版-购彩网重点推荐 お茶の水女子大学長 室伏きみ子
鷹野 景子 教授(本学基幹研究院自然科学系長)より、副賞(メダル)授与
【黒田チカ賞:栢沼 愛 氏】
表彰状
栢沼 愛 殿
お茶の水女子大学賞
業績「量子計算科学による金属錯体の光異性化反応機構の解明に関する研究」
あなたの標記の自然科学の諸分野における業績は著しく顕著であり、将来当該分野において国際的に活躍する女性になると認め、ここに第1回黒田チカ賞を送ります。
平成28年1月20日
dafabet官网_dafabet手机版-购彩网重点推荐 お茶の水女子大学長 室伏きみ子
鷹野 景子 教授(本学基幹研究院自然科学系長)より、副賞(メダル)授与
司会:続きまして学長挨拶。
学長挨拶 室伏きみ子(お茶の水女子大学長)
御手洗容子様、五十嵐悠紀様、栢沼愛様このたびは本当におめでとうございます。またお忙しい中審査に当たられまして、またこちらにご出席くださいました先生方、どうもありがとうございます。今後ともこの2つの賞につきましてぜひお力添えをいただきたくお願い申し上げます。湯浅年子賞は高エネルギー加速器研究機構の湯浅年子ラボラトリーのご発案でお茶の水女子大学の中にこの制度が作られました。また黒田チカ賞は本学の名誉教授でいらっしゃいまして、もう既にお亡くなりになりましたが前田侯子先生のご奉仕によりましてこの賞が本学の中に制度として作られました。湯浅年子先生も黒田チカ先生も本学の誇りにいたしております素晴らしい先輩方でいらっしゃいまして、いずれも国際的な素晴らしい研究を成し遂げて、なおかつ本学の教員として若い人たちの育成にあたってこられました。 そういった素晴らしい先生方の名前を冠したこのような賞をお受けになった皆さんには、ますます研究にもそれから若い人たちの指導教育にも頑張っていただいてこれからの科学の発展と女性たちのためにますますご活躍いただきたいと思います。本当に今日はおめでとうございました。
司会:引き続きまして湯浅年子賞関係の高エネルギー加速器研究機構Toshiko Yuasa Lab.ディレクター幅淳二先生よりご挨拶いただきます。
幅 淳二 氏(Director, Toshiko Yuasa Lab.)挨拶
高エネ研の幅と申します。本日はToshiko Yuasa Lab.のディレクターとしてご挨拶申し上げます。湯浅年子賞も今年で第3回ということですので、3年前から微力ながら進めてまいりました。毎年説明しておりますのでくどいようですが、高エネ研というつくばの研究所がこういう名誉ある賞でどうしてご協力させていただくようになったか、かいつまんで申し上げます。われわれの研究所とフランスのCNRSという文科省に対応する、研究教育を担当する機関とで、いろいろな共同研究を進めていくうえでそのプラットフォームを作ろうということで、実は10年ほど前から連携研究所、バーチャルラボといっていますがそういうものを始めました。それを進めていく過程で、フランスで活躍された実験物理学者である湯浅年子先生の名前を研究所の名前としていただいたらどうかという話が持ち上がってまいりまして、Yuasa Toshiko Lab.と名乗らせていただくことになりました。お名前を頂戴したからには何らか少しでもご貢献ができればということで、この湯浅年子賞にご協力するということが3年前から始まった、そういうことなのです。今日は御手洗さん、そして五十嵐さん、栢沼さん、黒田チカ賞のほうは実はわれわれは貢献しておりませんが(笑)、おめでとうございます。さて、女性の活躍にかかわる取り組みは、大変重要な現代日本の課題であり、我々も少しずつでも貢献できればTYL(Toshiko Yuasa Lab.)の名前をいただいた価値があるということで、試行錯誤を続けております。皆さんもよくご承知と思いますが、我々の研究所におきましても、昨今いろいろな局面で女性研究者をキーワードとしたさまざまな数字についていろいろと文科省のほうからも言われるわけです。我々の研究所は加速器を使ったどちらかというと大型機器での力仕事が多いようなイメージの研究所なものですからどうしても女性職員の比率は他の研究所あるいは研究分野に比べると少なめになっているのですが、そこはいろいろと努力をしていかなければいけないと考えてやっています。
女性研究者の比率がまだまだ我々の研究所で少ない、研究分野で少ない理由は、我々の自覚としては、ひとたび職場として応募していただいた後には、(人事選考や昇格において)我々の扱いに何の違いもないと思っているのですけれども、そもそも応募される研究者の母集団の男女比が大きく違っていて、それがそのまま職員の比率に反映されているというのが我々の分析になっています。ですから要するに若い女性にどんどんこの研究分野に進んできていただく、さらに女性研究者に進んできてもらわないとこの比率は最終的には解決していかないと思っていて、それで女性研究者の卵である若い方々にとって良いロールモデルになるような女性研究者の方々にも頑張っていただく、それを応援できることがあればわれわれも協力できたらというふうに考えてやっております。ということでこれを機にますます女性研究者、特に若い女性が進んでくる目標になるような研究者になっていただけるといいなと思っています。あらためまして今日はどうもおめでとうございます。ありがとうございました。
司会:どうもありがとうございました。本日は前田侯子先生の関係の方はご都合によりご欠席されています。
引き続きまして、選考結果報告をしたいと思います。まず湯浅年子賞です。
選考結果報告 吉田裕亮(「第3回 湯浅年子賞」選考委員会委員長)
湯浅年子賞はさきほどのご紹介にもありましたとおり高エネルギー加速器研究機構が日仏共同事業として運営するYuasa Toshiko Lab.の協力を得てお茶の水女子大学が湯浅年子博士の自然科学及びその関連分野に対する功績を記念して制定されたもので、今年が3回目でございます。今回の審査委員会は本学理学部5学科長 中居功、奥村剛、森義仁、松浦悦子、椎尾一郎に加えましてTYLから推薦された高エネルギー加速器研究機構の2名の先生、小林富雄先生、村上洋一先生、さらに理学部長が推薦する報道関係者としまして朝日新聞オピニオン編集部の辻篤子さん、また学長が推薦する者といたしまして本学名誉教授の舘かおる先生、それから徳島大学名誉教授の桑折範彦先生でございます。なお桑折先生は、湯浅年子先生の最後のお弟子さんと伺っております。委員長は私、理学部長吉田が務めさせていただきました。
本年度は5月28日から7月31日まで推薦による応募を受付けました。委員らの書面審査の後、9月28日に選考委員会を開催しまして、金賞受賞者1名として御手洗容子氏を決定いたしました。なお湯浅年子賞には金賞と銀賞がございます。金賞は自然科学の諸分野における業績が著しく顕著であり国内あるいは国外において既に高い評価が確立している女性を顕彰するとなっております。なお銀賞は自然科学の諸分野における業績が特に顕著であり、近い将来当該分野において国際的に活躍する女性になると認められる者を顕彰するとなっております。また規定により受賞者は日本国籍を有する者又は日本において高等教育を受けた者とするとなっております。詳しい選考報告はすでにウェブページに公開されておりますが、今一度申し上げます。
湯浅年子賞金賞 御手洗容子氏 物質材料研究機構グループリーダー
「高温構造材料に関する基礎研究及び女性研究者支援に対する貢献」
御手洗氏は、高温構造材料に関する基礎研究で多くの顕著な研究業績をあげている。特に、イリジウムの超高温域において優れた高温強度を示す高融点超合金の開発、高温で高強度かつ耐酸化特性に優れた白金族金属とチタンとの合金の開発等において多くの特許を取得する等、同氏の研究業績は国内外で高く評価されている。また、御手洗氏は金属学会男女共同参画委員会幹事並びに委員長を歴任し、加えて科学技術振興機構調整費「女性研究者支援モデル育成」を男女共同参画チーム長として推進するなど、17の男女共同参画関連機関の長として戦略的イノベーション創造プログラムを担当している。さらに同氏は研究チーム長として研究推進のためのリーダーシップ能力を発揮し、自らの研究の大成と共に、後進の女性研究者育成に努めている点も高く評価される。以上が湯浅年子賞の選考理由でございます。
それでは引き続きまして黒田チカ賞の選考結果を報告いたします。黒田チカ賞は本年度から創設されたお茶の水女子大学賞で、その目的は本学及びその前身校に於いて数多くの女子学生を育て天然dafabet官网_dafabet手机版-购彩网重点推荐の構造について長年にわたって優れた研究を行い、日本初の女性化学者として活躍した黒田チカ氏の遺志が若い世代に受け継がれることを願い自然科学の諸分野においで活躍が期待される女性研究者を顕彰することでございます。今回の審査委員会は本学理学部5学科長 中居功、奥村剛、森義仁、松浦悦子、椎尾一郎に加えまして学長が必要と認めた者として本学基幹研究院自然科学系長 鷹野景子でございます。委員長は私、理学部長が務めさせていただきました。また規定により受賞者は自然科学の諸分野において研究業績が顕著であり将来当該分野において国際的に活躍する女性研究者となることが期待される者で、募集の当該年度末において満36才未満又は博士号取得から8年以内の者かつ日本国籍を有する者又は日本において高等教育を受けた者となっております。本年度は6月22日から8月20日まで他薦及び自薦による応募を受付けました。委員らの書面審査の後9月28日に選考委員会を開催しまして書面による審査を行いました。のち11月4日、5日の両日にわたり面接による審査を実施し受賞候補者2名を決定いたしました。 選考結果はすでにウェブページに公開されておりますが今一度申し上げます。
五十嵐悠紀氏:明治大学 総合数理学部専任講師業績
「コンピュータを用いたインタラクティブ3次元形状モデリングに関する研究」
五十嵐氏は、平成17年3月に本学理学部情報科学科を卒業し、東京大学大学院情報理工学系研究科 博士前期課程?コンピュータ科学専攻を経て、同大学院工学系研究科博士後期課程先端学際工学専攻を平成22年3月に修了し、博士(工学)が授与された。学位授与後は、日本学術振興会 特別研究員PDおよびRPDとして研鑽の後、平成27年4月に明治大学?専任講師に着任した。五十嵐氏の主たる研究分野はコンピュータグラフィクスであり、分野的には形状モデリング及び布素材の特性についての物理シミュレーションにあたる。ユーザインタフェイスの学術領域では今まであまり着目されなかった領域において新たな概念の下にクラフト作成用のユーザインタフェイスの研究を行うなど、同氏の研究は国際学会並びに国際的学術雑誌における発表で世界的に注目されている。自動車などの工業製品のスタイリングデザインへの応用の可能性もあり、今後の国際的な活躍が大いに期待される若手女性研究者である。また、育児と学術研究活動の両立に関しても独創的な発想で対応し、所属学会において男女共同参画活動を積極的に行なうなど、当該分野における後進女子学生らのロールモデルとしても活躍している。以上、五十嵐悠紀氏の選考理由でございます。
続きまして栢沼 愛 氏。
栢沼 愛 氏(筑波大学計算科学研究センター 助教)
業績「量子計算科学による金属錯体の光異性化反応機構の解明に関する研究」
栢沼氏は、平成16年9月に本学理学部化学科を4年次中途で退学し、本学大学院人間文化研究科博士前期課程?物質科学専攻に飛び級入学をした。博士前期課程を1年半で早期修了の後、平成18年4月には同研究科博士後期課程?複合領域科学専攻に進学し、平成21年3月に博士(理学) が授与された。栢沼氏の主たる研究分野は計算化学であり、大学院時代には高精度分子軌道法による量子化学計算の研究を行った。学位取得の後、ストラスブール大学でのポスドク研究員として金属錯体を用いた光触媒系の反応機構の解明並びに光異性化反応の解明において顕著な研究業績を上げた。また、筑波大学?助教着任後には、生命物質学研究室との共同で、酵素の反応機構の解明に関する研究を行った。当該共同研究においては、栢沼氏の金属錯体の光触媒の反応機構の解明手法が大きな貢献を果たしている。さらに、最近では分子進化グループとの連携で真核生物のタンパク質合成に関わる研究も始めている。量子化学計算の研究範囲を物質科学から生命科学にまで応用するなど、今後の国際的な活躍が大いに期待される若手女性研究者である。以上が黒田チカ賞の選考理由でございます。
それでは以上をもちまして第3回湯浅年子賞並びに第1回黒田チカ賞授賞式を終了いたします。
司会:引き続きまして受賞セレモニー、受賞者講演がございます。
司会:どうも皆さんお待たせいたしました。それでは受賞者記念講演としまして湯浅年子賞金賞受賞の御手洗容子先生お願いいたします。「高温構造材料に関する基礎研究及び女性研究者支援に対する貢献」でございます。よろしくお願いいたします。
御手洗容子氏:このたびは大変名誉ある賞をいただきまして誠にありがとうございます。Toshiko Yuasa Lab.の関係者の皆さまと審査員の先生方に心よりお礼を申し上げます。また、この賞を強く推薦してくださいました私の上司である黒田さんにも心から感謝しております。どうもありがとうございました。
今日は高温構造材料に関するお話をさせていただきたいと思うのですけれども、昨年と一昨年の受賞者の方の講演を拝見していますと、皆さま湯浅先生に非常に関係の深い分野の、原子物理学であるとか素粒子のお話をされていたので、ここでどういうお話をしたらよいのかなとちょっと迷いましたけれども、どちらかというとサイエンスよりはエンジニアリングをやっているようなところもありますが、これからはそういう分野でも女性がもっと頑張りなさいというような激励をいただいたと思い私の研究内容を簡単に紹介させていただければと思います。
簡単に自己紹介をさせていただきます。
まず私の所属の物質?材料研究機構(NIMS)ですが、どういうところかご存じない方も多いのではないかと思いまして、簡単にご紹介いたします。元々科学技術庁の傘下の金属材料技術研究所というものがありまして、私はここに就職をいたしました。当時同じ科学技術庁の傘下の研究所として無機材質研究所といってセラミックの研究をする研究所がありました。それが2011年の行政改革で独立行政法人になりこの2つの研究所が合併して物質?材料研究機構となりました。その時に金属とかセラミックに限らず新物質の創世及び材料の高度化を追求する研究をしなさいということで「物質」と「材料」という言葉が頭についたわけです。今では高分子材料ですとかタンパク質を用いた材料ですとか非常に幅広い材料の研究が行われています。2015年から国立研究開発法人になりました。構成としてはだいたいトータルで1,000人ちょっとくらいおりまして、研究者が400名ちょっとですね、その中で女性研究者が今36名おりまして全体の研究者の中で9パーセントおります。事務職に限りますと23パーセントいるということで、女性研究者率では比較的高いほうの機関ではないかと思います。
簡単に職員の女性比率を示しました。こちらが研究者で全研究者数はだいたい400人前後で動いています。女性研究者はちょっと下がったときもありますが着実に増えております。今研究者数はこちらなので、先ほど申しましたように36名で10パーセントをちょっと切るくらいの比率になっております。エンジニアリング職というのもありまして、元々人数が少なくて40?50人なのですけれども、そこでも女性が非常に増えておりまして、今10パーセントくらいエンジニアもおります。こちらは事務職です。それで全体合わせますと12.5パーセントくらいの割合になっております。
もう一つ自己紹介です。私は東工大の金属工学専攻を修了して94年にドクターを取得しました。その後は学振(学術振興会)の特別研究員をいただきましてマンチェスター大学に7ヶ月くらいおりました。その後先ほど申しました金属材料技術研究所に入所しました。その後2004年に労働組合の委員長をやることになりまして、この時にyoungestでfirst femaleと言われ、とても荷が重いとは思いましたけれども、引き受けました。ちょうど子どもが下が3歳で上が6歳で、こういう大変なときにどうしてこのようなことをやらなければならないのかと思いましたが、労働組合の活動というのは、普通仕事が終わって夕方5時とか6時から始めるので、それだと保育園のお迎えに間に合わないということを言いましたら、あなたが委員長なのだからあなたの都合の良い時間にやればいいですよと言われて、昼休みに労働組合の活動をすることになりました。そういう自由が利くという意味でリーダーになるというのも悪くないなと思ったのも、労働組合をやったことがきっかけでそういうふうに思うようになりました。その後2006年にグループリーダーになりました。入ってから11年目になります。なったのですがちょうどその時同じ時期に人材開発室という研究者を採用する部署に併任になりまして、ここでは研究は1年間停まりました。その後研究に戻ったのですけれども、この人材開発室にいるときにその中に男女共同参画チームというものを作りまして、ちょうどその時に2006年から科学技術振興調整費の「女性研究者支援モデル育成事業」というプロジェクトがありまして、NIMSも応募しまして2回目で採択されました。たしかお茶の水女子大学は第1回目で採択されていたのではないかと思います。そういう先輩方というか先に採択された機関の活動などを見ながらNIMSでも2年目に採択していただきまして活動を始めました。こういうことがありまして研究に戻ったのですけれどもなかなか研究ができないような状況が続いておりましたが、その2年目の時に女性研究者支援と言いながら育児中の女性研究者にこういう活動をさせるのはどうかというご指導が入りまして、そこで改めて男女共同参画室というものを作りまして、育児中ではない方を室長にしてそういう体制で振興調整費は最後のほうは進みました。その時は関わっていたということもありますので室長補佐ということで私も引き続きこの育成事業に関わっておりました。同じくらいの時期にこれは運営費交付金のNIMSの中でのプロジェクトなのですが、比較的大きなお金で複数の人数でグループを作ってやるプロジェクトで白金族金属を有効に利用するという内容のプロジェクトリーダーをここでやりました。初めてここで自分一人ではなくていろいろな人とプロジェクトを作っていくという経験をいたしました。
独立行政法人は5年に1回で中期計画を作っていくのですけれども、その後2011年に第3期が始まりまして、また組織が変わりまして今所属している先進高温材料ユニットの構造機能融合材料グループのグループリーダーをやっております。ここのユニット長が先ほど申しました黒田さんで、黒田さんと一緒に仕事をするようになったのがこの時期です。同時期、低炭素化社会を実現する耐熱?耐環境材料の開発というプロジェクトが運営費交付金で始まりまして、このプロジェクトリーダーは黒田さんです。その副リーダーをサポートがどれだけできているか分かりませんけれどもさせていただいております。同じ時に最先端次世代研究開発支援プログラムにも採択されまして、これは比較的個人的な研究でしたが、比較的大きな予算をいただいて研究をすることができました。昨年構造材料研究拠点というものがNIMSの中にできまして、バーチャルな組織ですが、副拠点長として次期中期計画が次の4月から始まりますのでそれに向けた組織作りなどの活動をしております。同じく去年、SIPのプロジェクトというものが採択されまして研究代表者としてこれは本当に17機関が参加するような非常に大きなプロジェクトです、初めてそういうプロジェクトに参加すると同時になぜか気がついたら研究代表者になっていてそういう取りまとめもやっているという状況です。
大学時代は何をしていたかというと、タイトルを読み上げます「γ-TiAl金属間化合物基合金における組織形成」ということでこの2元合金におけるα相の生成過程ということで典型的な金属の冶金屋的な研究を行いました。金属屋にとって組織というのは非常に重要でこの組織を制御することによって特性が大きく変わりますのでこれをどうやって制御するかという研究がたくさんあります。これは金属屋がよく地図のように使う状態図というもので例えばチタンに対してアルミをこのように添加していったときそれぞれの組成と温度で、どういった相ができるのかというものが示されています。例えばこのチタン?アルミというのは皆さんもニュースなどでもしかするとご存知かもしれませんがチタンとアルミが原子比で50パーセントずつ、1対1で入っておりまして、基本的には面心立方の構造でチタンとアルミの位置がこのように決まっています。チタンの相とアルミの相が交互になっているような規則的な構造をしています。これはちょうど私が学生の時に、1980年代だったのですけれどもブームで多くの研究者が研究をしました。非常に優れた特性をもちながら脆いという欠点もありまして、それを克服するのが難しいということでブームが去りまして、その後これをやっていた多くの研究者が生体用のチタン合金に移っていったという歴史があります。
ところがチタン?アルミをずっと研究していた企業もありまして、数年前に話題になりましたのはボーイング787の燃費が非常に向上したということです。その原因としては全体として重さを軽くしたということがあるのですけれども、特に燃費の向上に大きく貢献したというのはエンジンの燃費効率があげられます。大体8割を占めていると言われています。エンジンの燃費効率をどのようにして行ったかといいますと、これはジェットエンジンの絵なのですけれども、一番最後の後段、低圧タービンというところの後段にチタン?アルミを使ったことによってエンジン全体の重さを軽くすることができて、それが非常に燃費に効いたということになります。通常ここはニッケル基超合金というものが使われておりまして、チタン?アルミはニッケル基超合金の密度が半分です。そういう非常に軽くて且つ耐熱性のある材料をここに使ったということが非常に大きな効果があったということになりまして、私が研究をしていたころはこういうところに本当に使われるというのは、皆さん夢は見ていましたけれども思っていなかったので、そういう研究の走りに関われたということは非常に光栄なことだと思います。
次から研究の話に入っていきます。
先ほどもご紹介いただきましたが、高融点超合金という研究をいたしました。NIMSに入ってすぐの研究ということで、まず私が所属したグループはニッケル基超合金、先ほども申しましたジェットエンジンに使われているニッケル基超合金の研究開発をしているところで、ニッケル基超合金というのは特にエンジンの、ここに圧縮機があって燃焼機があり、この燃焼機の後ろの非常に温度の高いところに使われております。
これはニッケル基超合金の開発の歴史で、年代による開発史です。ある応力をかけたときにその応力で1000時間耐えられる温度というのが縦軸にプロットされています。1000時間というと大体1ヵ月半くらいになります。初めは700度くらいで使われていたのが段々高い温度で使えるようになりまして、1000度を超えて、今は1100度に近い温度のものができています。ここで塗りつぶしてあるマークはNIMSの私が昔いたグループで原田という元の上司が、開発した合金です。こういうすごく面白いことをやっているグループに入りまして、最終的にはこの中でどの合金か忘れてしまいましたが、ボーイング787でANAが使っている機体のエンジンに搭載に向けて開発した合金がすでに搭載されております。こういう非常に活発な成果を出しているグループに所属しましたが、私が入ったときに与えられたテーマは、白金族金属のイリジウムといったものを使った合金の研究でした。
説明の前に白金族金属について説明します。
これは白金の需要で皆さんもよくご存知のように白金というのは自動車の排ガス触媒として使われています。よく見ると需要としては非常に小さいですが、ガラスというものがありまして、それは何かというと窓ガラスとかコンピュータのディスプレイとかそういったガラスを作るときの溶解炉としてつまり耐熱材料としてバルクの白金合金が使われています。このような感じの大きなものを作って白金が使われているわけです。
そしてイリジウムはどのようなところに使われているかというとやはりイリジウムも触媒系が多いです。ただその中に比較的大きな割合を占めているのがるつぼとしての用途、それからスパークプラグというのもあります。るつぼはエレクトロニクスの単結晶の酸化物ですが、そういったものを育成するためのるつぼで、これは融点が高いです。それよりさらに融点が高いイリジウムがるつぼとして使われています。スパークプラグは自動車のエンジンを始動するときに使いますが元々はニッケルなどが使われておりました。この図はどのような材料が使われてきたかという変遷を示しています。白金とかニッケルが使われていたのが最近はイリジウムの需要が多くなっているということが分かります。これもスパークするときに瞬間的に温度が2000度ぐらいになりますので超高温材料であるイリジウムが使われていると言えます。
そのイリジウムを使って何をしようとしたかというと、これはニッケル基超合金の中を、組織を観察するとこういう模様が見えてきます。金属というのはこういう模様である組織をどうコントロールするかで特性を大きく変えることができますが、ニッケル基超合金というのはfcc構造のニッケルをマトリックスの中にfccが規則化したL12という構造があって、こういう規則的な構造をした物が析出しています。ニッケルのほうをγ相、析出物をγ’(ガンマプライム)相と言います。γ相中にγ’がこのようにcuboidal、立方体の形で非常に規則正しく整列します。こういう形状で整列することによって、金属は変形するときに転位というものが移動するのですが、このような規則正しい配列は転位の移動を妨げるのに非常に有効で、そのためにニッケル基超合金は優れた高温強度を示しているということになります。これと同じことをイリジウムでもやりたいと。これはイリジウムの状態図です。イリジウムとニオブというものを添加しますと、イリジウムも実はfccの金属です。ニオブを添加しますとIr3Nbいうものがここに出てきまして、これの結晶構造はこのNi3Al、γ’と言われている相と同じです。それでこのイリジウムを使って、これは融点が2400度ありますので非常に高い温度で安定なこういう組織が作れるのではないかということが始めるきっかけでした。イリジウムの状態図を見ていきますとイリジウムにこの辺のIV族、V族の元素を入れたときそれからロジウムにIV族、V族の元素を入れると同じような組織になるだろうということで、これが私がNIMSに入って始めた仕事です。
これはイリジウム合金にいろいろな元素、バナジウム、チタン、ニオブ、タンタル、ハフニウム、ジルコニウムといったものを入れてどのような組織になるかというものを観察したものです。このイリジウム?ニオブの合金は先ほどのニッケル?アルミと似たようなちょっと角が丸っこくなった立方体の析出物が出ています。ハフニウムやジルコニウムを入れるとこういう板状の形状に変化しますし、バナジウムやチタンですと形状がはっきりしない、丸いというか不規則な形状になります。どうして元素によって違うのかということは、先ほども示しましたが結晶構造が非常に似ていて原子の配置だけが違うという関係にありますので、ある特定の面を晶癖面として析出物が生成してきます。その晶癖面での格子の大きさの違いによって形状が変わってくるので、そういう目でこの組織を眺めてみますと格子常数のミスフィットが小さいときは球状や不規則な形になります。中ぐらいになると四角、立方体になって、さらに大きくなるとこういう板状になってくるということが分かってきました。
こういうふうに元素を変えることによって組織を変えることができて、これをカラーで示したのが強度です。黒で示したのが典型的なニッケルの合金です。ニッケルの合金は1000度くらいまでは非常に高い強度を示しますが、1000度を超えると急に落ちてきます。それに比べイリジウム系の材料も温度が上がると強度は下がってきますが、ニッケルに比べると高い温度でも比較的高い強度を示すことができるということが分かってきました。
ただこれはいろいろ10年間研究しましたが、比強度ということで比較すると、比強度というものは強度を密度で割ったもので、特に輸送機に使う材料というものは軽くて強いということが大事なのでこの比強度が高いほうがいいということが言われます。イリジウムはニッケルに比較しますと2.5倍重い材料でして、これは物理的な性質なのでどうしようもないですが、そういうこともあって、いくら高い強度を示しても比強度すると非常に小さくなってしまうことになります。この辺の材料というのは期待はされていますがまだまだ実用化には遠いということもありますし、イリジウム合金のもう一つの欠点は脆いということがあります。特に航空機エンジンなどでは脆い材料は使いにくいということもあって、今はちょっと強度を落として成形性を良くして、航空機ではなくてロケットの部材として使えるのではないかということで、こういう研究を引き続き行っております。
次に高温形状記憶合金ですが、この研究は2002年くらいから始めました。形状記憶合金という名前は皆さんご存知かと思いますが、例えば形状記憶という性質、これは例えば室温で変形させても温度を上げるとある温度以上で元々記憶させていた形状に戻るという性質があります。それから普通、金属というのは変形させると戻りませんが、大きく曲げても戻るという超弾性という性質があり、さまざまなところに使われています。今使われているのはニッケルとチタンを配合したニチノールという商品名で売っている、チタン?ニッケル合金。形状記憶効果は、本当に身の回りのいろいろなところに使われていて、炊飯器、コーヒーメーカー、温水混合栓などです。それからマイクロアクチュエーターという形で、例えばこういう形状の物を形状記憶合金で作って温度を変えると温度によってアクチュエーターとして動いてくれるという用途もあります。超弾性のほうはメガネフレーム、歯科矯正ワイヤー、それから手術の時に使うガイドワイヤーなどに使われています。それから形状記憶の性質としてはステントといって動脈硬化の手術などに使う材料もこういう物で作られています。
先ほどのチタン?ニッケルは形状回復が起こるのは100度以下の温度でしか起こらず、2000年になってNASAがもしもっと高い温度で形状回復する材料が見つかったらそれをエンジンの動的部品に使うことができるのではないかという提案をしました。それを使うことによって、今まではいろいろなガスの流量を調整するバルブですとか、こういう排気ガスを出すときのノズルの調整とかそういうものを油圧システムで行っておりましたけれども、そういうところにこういう高温で動く形状記憶合金を使うことによってよりシンプルでメンテナンスも簡単なシステムにすることができて、それによってエンジンの重量を軽くすることができるのではないかという提案をしました。一時期アメリカでもすごく高温形状記憶合金の研究というのは盛んに行っていて、NASAとかGEが本当に総力を尽くして合金開発をやっておりました。私はこれを知る前から研究を細々と始めていました。NASAでこういうことを提案しているということを知って応用分野として航空機に使えるというのであったら面白いなということで非常にやる気が出てきたということを覚えています。
チタン?ニッケルというのが今実際に実用材として使われている材料ですが、例えばニッケルの代わりに白金?パラジウム、これも白金族金属です。これを入れてチタンと白金が50パーセントのところで見るとこの組成幅でTiPt(チタン-白金)というものができます。ここの1000度くらいのところに線があってこれより上の温度と下の温度では結晶構造が変わるということを示しています。同じような状態図がTiPd(チタン-パラジウム)でもあります。こういう組成の変化無しに結晶構造が変わるということをマルテンサイト変態と言います。マルテンサイト変態があることが形状記憶特性を示すのに非常に重要な因子になりますので、これを見たときにこういう材料が高温形状記憶合金として使えるのではないかと思い、この研究を始めました。初めに紹介したイリジウム系の材料というのはなかなか実用材として使うのは難しいなということもあって、他の応用分野を探していた中でこういう状態図を見てこれは新しいテーマとしてやってみようということで始めました。実際にやってみるとTiPdについては日本でも実は80年代くらいにやっていた先生がいらっしゃって、ただ回復率が高温になると良くないというのでその後研究が進んでいませんでした。そういうことを見ながら、では回復率を上げていくのに何をしようかということで取り組み始めました。
これはマルテンサイト変態の説明です。高温ではこういうBCC構造が規則化したB2構造というものが安定で、変態温度が下がると斜方晶のB19というものになります。こういう書き方をすると何か全然違う結晶構造に見えますが、B2構造の(110)面というところのスタッキングを表した図でB19になるときはオレンジで示したBという面がちょっとだけシフトするとこういう2層のレイヤーになります。このちょっとした移動だけで別の結晶構造になるというのがミソです。
組織を見るとこういう風に非常にきれいな線が入ったような組織になります。これは双晶組織と言ってこの界面の前後で原子の並び方がちょうどミラー対称になるような配置をしています。こういう組織ができるというのも形状回復を起こす重要なファクターになります。
これをさらに透過電子顕微鏡で撮ってみると、これは原子の配置を見ているものです。きれいに晶壁面を境にこういう並びとこういう並びがあってミラー対称になっているのが分かると思います。素粒子や原子核というのはさらにこの1個1個の原子の粒の中の話です。金属屋は組織を見ながらこういう原子の並び方を見て、このような組織になっているものが特性にどういうふうに影響があるかというところを研究したりしています。
もう一つ余談ですが鋼にもマルテンサイト変態というものがあります。鋼は組織を見ると欠陥が大量に含まれているような組織が得られますが、鋼の場合はマルテンサイト変態を利用して固くしています。こういう欠陥が入ることによってものすごく固くなります。包丁とか日本刀を作るときに赤く熱したものを水の中にジュッと入れるとその瞬間にこういう構造ができます。同じマルテンサイト変態ですが、鋼は固くて、要するに刃をつけるようなときにマルテンサイト変態を利用します。一方で同じマルテンサイト変態でも形状記憶合金の場合は、マルテンサイトになると柔らかくなります。それは同じマルテンサイトでも大きく違うのは、鉄のほうは相変態に伴う体積変化が大きくて、形状記憶合金のほうは体積変化が非常に小さいということで、こういう双晶界面を作ることによって変態の時に入ってくるひずみのようなものをある程度緩和することができ、鉄のほうは全くできないというような違い、形状回復は起こったり起こらなかったりという違いがあります。
形状記憶の話に戻りますと、どうやって回復率を上げようかというところで、高温になったときに強度が落ちてしまうというのが問題ですので、第3元素の添加ということを金属屋はよくやります。元素を添加することによって材料の強度を上げてやろうということで、いろいろな元素を入れてそれによって変態温度がどう変わるのか、組織がどう変わるのかというようなことを系統的に調べました。例えばTiPd系ですと、400度くらいで形状変化することができて、これは今まで使われているTiNi(チタン-ニッケル)系よりはるかに高い温度です。ただなかなか100パーセントというのがなくて、与えた変形に対してどうしてもひずみが残ってしまうということがあって、いいところで80パーセント、ものによっては条件が良いと100パーセントいくこともあります。TiPtのほうは800度くらいで非常に高い温度で回復しますが、高い温度なのでその分欠陥が入りやすくなってしまいます。いいところでも60パーセントくらいまでしか今のところは回復できていません。こういうことをやりながら違う元素を入れてこういう回復率の違いがどうして起こるのかということを、例えば強度がどう変わったのかとか、マルテンサイトの界面の動きやすさを調べたりとかいろいろしたのですが、なかなか系統的に見えないところもあって、結局最終的に行き着いたのは、温度を上げて行くとある温度でこういう析出物が出てくるということが分かりました。どうもこの析出物がマルテンサイト相から上の高温の安定な相に逆変態するときの温度に近いところで一緒に出てしまうと、これが回復を妨害しているのではないかということが分かりまして、この辺のIV族のジルコニウムやハフニウムが今のところ一番可能性が高い添加元素であろうということで、そういうことを理解しました。
これは最先端のプロジェクトで購入した装置です。高温の形状記憶合金をやっていて非常に難しいなと思ったことが、高温で温度を変えていったときにひずみがどう変わっていくかという実験をよくやりますが、ひずみを正確に調べるということが高温の試験機ではなかなか難しいのです。それをやるために試験機の脇にCCDカメラとLEDの光を当てる機械をつけまして、治具の動きをダイレクトに見ることによってひずみを測るというシステムを導入して、これによって高温での形状記憶回復の機構、挙動を調べるのに非常に有効な装置になりました。
いろいろな合金を開発して来まして、いくつかのものは100パーセント達成しています。だいたい400度くらいで1回であれば回復できるものが得られています。他に例えば他の機関で研究している、このルテニウム合金というのはフランスの機関が研究していてこういうところと比べるとまだ若干負けているところもありますが、今後より高い温度で100パーセント回復できるような材料を見つけていきたいと思っています。
こちらはNASAで開発している材料の仕事量の比較です。オレンジと赤がNIMSでやった結果です。同じ組成でもちょっとトレーニングということを行ってあげることによって仕事量が増えますよ、と。NASAの合金と比較して若干ですけれども高い温度で、比較的大きなと言うか、これと比べると大きな仕事量を得ることができました。ということでこういうものをさらに研究していって、より高い温度でより大きな仕事量が得られる材料を開発していきたいと思っています。
耐熱チタン合金のほうは今のプロジェクトで行っていますが、先ほど言いました圧縮機に使われている以外にもいろいろなところにチタンは使われております。
これがチタン合金の開発史で、80年代くらいまでいろいろ開発があり現在600度まで使われています。それを超えるとどうしても酸化されてしまう、強度が落ちる、という問題があり、なかなかこの600度の壁を破ることが難しいと言われています。ここの酸化特性を上げるというのにどうしたらいいかということをここ5年ほどやっておりました。これが現在使われている商用のチタン合金の組成です。ぱっと見ていただくと入っているものがアルミ、スズ、ジルコニウム、モリブデン、シリコン、ニオブとか非常に似たようなもので構成されています。それの組成をちょっと変えることによって皆さん特許を取って使っているわけです。つまりこれ以外のものというのはなかなかある特性が良くなっても別の特性が悪くなったりして、大きく変更できないのだろうなと思います。実際に酸化性を調べてみますとスズが入っているというのはとにかく良くない、これは酸化皮膜がものすごく厚く、600ミクロンくらい成長しているということが分かりました。スズというのは、ある相を安定にするのに絶対に必要な元素と思われていますが、耐酸化性という観点から見ると良くないので、今これはなくした材料を開発しています。
あともう一つニオブを含む合金というのが非常に耐酸化性が良くなる。チタン6242という従来実用材と比較しても、ニオブを入れると耐酸化性は良くなるということで、スズなしニオブ入りということで合金開発をしています。
酸化の挙動なども、酸化したあとに断面を見て表面にどういう相が出ているか組織観察をします。チタニアとアルミナが比較的密に成長して、この成長速度が遅ければ遅いほど耐酸化性が良いということです。このようにいろいろなものができてしまうと、ここから剥離したりして、そこからさらに酸化するということでよろしくないということが分かっています。
さらに強度を上げるという意味では、ちょっとここに細かくポツポツと見える白いツブツブが非常に微細なナノオーダーの析出物です。こういうものもうまくコントロールして先ほどの耐酸化性の良い元素を入れてこういう組織を作ることによって耐酸化性と強度のバランスがとれた材料を開発したいと思っています。
最後に金属材料というのは組成を変えただけではなくて、同じ組成で熱処理とか加工を変えると大きく組織が変わります。これはその一例です。ある同じ組成の合金で鍛造と圧延というのをして棒を作りました。ここの4つの写真の違いというのは熱処理を変えただけなのです。熱処理を900度、950度、1000度、1050度と変えただけで、たった50度違うだけでこれだけ変わります。これによって力学特性は大きく変わります。これからは先ほどの組織と組成と、組織も加工プロセスを用いたこういう組織を制御することによって必要な特性を有する材料を開発していきたいと思っています。
最後に男女共同参画活動ということで、まず金属学会での活動というのは2004年くらいに始めました。ちょうど労働組合を始めた時で、この年はこういうことをやる年なのかなぁと思って話を伺っていました。元々物理学会にも所属している東北大の米永先生が声をかけてくださり、「一緒にやりましょう」ということで始めました。やっている内容は、どこの学会でも行われていることとあまり変わりません。託児室の開設や学会中にキャリアアップのための学生さん向けの講演をしてもらったり、女性会員のネットワークを広げるということで、集いでお昼ご飯を一緒に食べたり、夜の部ではインフォーマルな私が勝手に飲み会を開いて、こういうところで仲良くなっていこうと。それから男女共同参画学協会連絡会は、活動を始めたとほぼ同時にオブザーバーで参加しました。今もオブザーバー参加で申し訳ないのですけれども、参加しております。ちょうどこの時に物理学会ですとNIMSの板倉明子さんという方がいまして、彼女は物理学会でいろいろ活動をしていて、金属学会ではやらないのかなんていう話も聞いて、物理学会の活動をかなり参考にして金属学会の活動を行っております。この学協会連絡会に参加してすぐにアンケート調査の第1回がありました。第1回の時は30人くらいしか回答がありませんでした。シンポジウムで分科会のお手伝いも2回くらいいたしました。さらに「女子中高生夏の学校、関西科学塾」などで実験講座を担当し、金属の先ほどの熱処理を変えるとどう変わる、力学特性が変わるなどという簡単な実験もしています。この第1回のアンケートをしたときに私がすごく衝撃的だった調査結果がありました。始めアンケートを採った時に育児がどれだけ大変か、どういうことを改善すれば良いかなどというのは私自身、自分が経験しているから知っているというつもりでアンケートに答えました。
その時に例えば男女の年収格差のような調査もあり、500万円を超える辺りから女性が急に減ってしまうという、こういうのを見て将来的には年収が高いグループに入れる人になりたいなとちょっと思ったりもしました。
それからこれは研究費の格差で、例えば大学だけで見ると、男性は年齢が上がるに従って予算をたくさん持っている人の割合が増えてきます。女性も増えますが男性と比べるとやはり少なく、男性はやはり大きなプロジェクトを運営して、予算と人を使って大掛かりな研究をしていく、こういうところにも差があるのですよという話を聞いて、当時その時は子育てで一杯一杯で研究しているのかしていないのか分からない状況でしたが、将来的にはこういう大きなプロジェクトもできるような研究者になりたいなと思ったことは覚えています。それなので男女共同参画の活動をしていたときは、自分の大変なことを知ってもらいたいという気持ちと同時にこういうことをやってないで研究に専念したほうが良いのではないかと思ったりしましたが、実はいろいろこういう情報を得ることによって、自分が置かれている立場をより客観的に見てそれからどうしたらと良いのかということが分かったのが非常に良かったのではないかと思います。
NIMSでは先ほど言いましたように振興調整費が配分されて、平成19年頃から男女共同参画を始めました。いろいろと考えられる制度は導入できたと思っています。個人的には私が住んでいる市で学童問題というのがありました。学童(保育)は6時までで終わってしまいました。保育園は7時まで預かってくれるので、それでは仕事が続けられないということで時間延長活動ということを市議会に懇願して、7時までに延長してもらったり、学年も3年生までのところを6年生まで延長してもらうことに成功しました。ただこれらの制度が導入されたときには子供が学童を卒業してしまったので、自分にはメリットはありませんでした。
おかげさまで子どもが大きくなり、今は子供2人だけ置いて夫婦で海外出張や赴任などもできるようになりました。ご飯も自分たちで作って生活しています。子育ては大変と思ったこともありますが、やはり子どもに支えられて、子どもにメンタルを鍛えられて今に至っているのかなと思って子どもにも感謝したいと思います。
それからこれはグループのメンバーですが、グループメンバーにも研究面で支えてもらったということで感謝をして終わりたいと思います。ありがとうございました。
司会:どうもありがとうございました。ご質問ございましたら簡単な短いものをお受けしたいと思いますいかがでしょうか。では時間も押しておりますのでどうもありがとうございました。
お茶の水女子大学 企画戦略課 (男女共同参画推進担当)
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