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全学教育システム改革推進本部

生命観を伝えたい:学生たちと共に創っていく授業

室伏 きみ子(人間文化創成科学研究科研究院 基幹部門 自然・応用科学系 教授)

 全学教育システム改革推進本部の藤崎宏子先生から、FDエッセイへの寄稿のご依頼があり、「さて、私が授業において工夫していることは何だろうか?」と考えてしまいました。恐らく、どなたも同じように工夫をしていらっしゃるでしょうから、特に目新しいことではないだろうと思うのですが、多少私らしい授業の進め方かも知れないと思われることを述べてみたいと思います。

 私は授業を通して、学生たちに私自身の生命観を伝えたいと思っています。そして、学生たちにも自分自身の生命観をしっかりと持って欲しいと願っています。生命の仕組みの素晴らしさを知り、それが長い進化の歴史の中でつくりあげられてきたものであることを理解して、自分自身と周囲の人々、そして地球上に生きる人間たちと多くの生物たちを、大切に思って欲しいのです。

 そんな思いを持って授業を進めているのですが、授業というものは、学生たちといっしょに創っていくものだと考えています。毎年、授業を始める前に、そのときの学問の流れや、学問と社会との接点を考慮して、学生たちが今、どんなことを身に付けてくれることが望ましいかを考え、授業の全体的な構成と具体的な内容を組み立てています。最小限、核になる部分ははずせませんが、学生たちとの対話を通じて、最初に考えていた授業の構成を変更することもしばしばです。

 そのために、毎回授業の最後の10分間を使って、興味を持った点、疑問に思った点、改善すべき点、授業に対する要望、その他の意見や感想をまとめて、提出してもらっています。次の授業時間までに回答を準備して、授業の最初に紹介し、もし必要ならば、学生たちの間での意見交換を行なってもらいます。これは、私が担当している学部向け、大学院向けのどの授業でも、十数年にわたって実行して来ていることですが、学生たちの誤解を見つけ、疑問や問題意識などに対応することができます。また学生たちの興味深い発想にも出会えて、とても嬉しい思いをすることもあります。

 学生たちとの双方向の意見交換が、私自身の授業や考え方をブラッシュアップするためにもとても役立ちますし、学生たちにとっても、自分が持たなかった疑問や自分以外の考え方などに触れる機会を持つ事が、その視野を広げ、多様な考え方や異なる立場を受容する態度を養う上で、非常に役立つことでしょう。

 なお、この授業の副産物として、学生たちの文章が確実に上手になっている事が挙げられます。今の学生たちには、文章を書くという習慣があまりないのかも知れませんね。文章を書くという作業は、自分の考えを整理し、それを他人に分かるように組み立て、適切な言葉を選んで表現する作業ですから、論理的思考を養う上でも、とても役に立つことなのです。

 たまに、卒業生から「先生のあの時の話が心に残っています」と言われることがありますが、そんなときが、教師としての幸せを噛み締めるひと時です。

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