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平成23年度卒業式 学長告辞

2012年3月23日更新

ご卒業おめでとうございます。
この日まで学生を支えられたご家族、ご関係の皆様に、心からお祝い申し上げます。
また本日は、本学の監事、経営協議会の方々、卒業生の会である桜蔭会の会長、理事の皆様にご臨席いただきましてありがとうございます。

昨年は、大震災の直後、余震が続く中、卒業生と学内の教職員だけで簡略化した卒業式を行いました。
東日本大震災から1年が過ぎ、このように皆様と卒業をお祝いすることができますことを嬉しく思い、またこのような機会がいかに得難く貴重であるかを実感しております。

1万5000人を超える犠牲者を出し、なお3000名以上の方々が不明なままであり、復興の道筋が見えない状況にあることを思いますと、今このように学問の場に身を置いていることの意味を改めて考えさせられます。一日も早い復興を願い、そのために大学としてなしうることを積極的に行ってゆくことが国立大学の重要な使命の一つであると考えています。
震災直後、本学からは大学の備蓄品を被災地に送りましたが、その後、被災学生への支援を開始するとともに、「被災地支援プロジェクトチーム」を設置して、被災地の情報を収集しながら、主に教育支援を実施してきております。また、復興と防災のプロジェクト研究も学内で複数開始いたしました。これら活動によって、被災地に以前より充実した教育環境が整うことを期待しつつ長期的視点に立って、引き続き支援に取り組んで参りたいと考えています。
こうした被災地支援に限らず、お茶の水女子大学は常に社会と共に在ることを重視してまいりました。
学問研究は普遍的な真理の探究が第一義ではありますが、学問に携わる者は、常に変化し続ける社会状況と社会的課題にも敏感でなければならないと考えます。
皆様が入学した平成20年度から開始した「21世紀文理融合リベラルアーツ教育」の意図もそこにあります。それは、具体的な課題に対して、様々な専門的見地からアプローチする方法を学ぶことであり、それを通して問題解決の新たな方策を見出すことです。課題へのアプローチの仕方は、専門によって大きく異なりますし、深い専門性が問題を解決する有効な手段であることに気づくのが本学のリベラルアーツ教育の特色です。その上で皆様はそれぞれに確かな専門的知識を修得されました。
課題は常に新しい形で私たちの前に立ち現れます。そして私たちを取り巻く問題はますます複雑化しています。それに対しては、既存の学問分野を超えるような柔軟で多様なものの見方、考え方、対処の仕方が必要になっています。過去の解決手法がそのまま適応可能であることは極めて稀です。マニュアルはないのです。ですがそのときこそ、深く確かな専門的知識が有力な手段になります。複雑な問題を解決するには、広い視点をもって専門的な知識を縦横に駆使する力が必要なのであり、皆様はその力を十分に身につけているはずです。今お渡しした学位記は皆様のその力の証です。これからはその力を存分に発揮していただきたいと願っています。

複雑な課題が山積している事態に対して、持続可能で真に豊かな社会を実現するために、高等教育機関は何をなし、また大学で学んだ皆様には何が期待されているのか、私たちは様々に問いかけられています。
大学の役割は、事柄の本質を見定め、常に社会に新たな見方を提案し、新たな価値を示すことであると私は考えています。

「人間の未来は、自然の出来事のようにおのずから生じるものではない。今、そして、瞬間ごとに、人が為し、思惟し、期待することが、まさに人間の未来の起源となる。」

(K.Jaspers, 『歴史の根源と目標』1949年)

移りゆく事象をそのまま受け入れるのではなく、持てる知と力を駆使して、新しい未来を創造すべく努める使命が私たちにはあります。それはお茶の水女子大学のリーダー教育の目標でもあります。
本学ではリーダーの育成に力を入れていますが、この大学が目指すリーダーは、単に組織の長を意味するだけでなく、多様なあり方や考え方を認め、社会基盤を構築する存在となることでもあります。それが社会を牽引する力になると考えるからです。そのために、知性を備え、他者を尊重し、しなやかな強さをもつことをリーダー教育の中心に据えました。
私が参加している国のある審議会で委員の約3分の1(16人中女性が12人のうち5人)がお茶大の出身者だということに気づいて驚いたことがあります。これはほんの一例にすぎませんが、創設以来137年の歴史をとおして、私たちの大学は、新しい分野を開拓する人々が学び、そして今、社会基盤を担う人々が学生時代を過ごした場なのです。
これからの社会人としての生活では、学校生活とは全く異なる多くの困難に突き当たり、迷うことも多くあることでしょう。ですが、そのような時には、この大学で学んだことを誇りに、自分を信じて自らの判断に自信を持って果敢に困難と闘っていただきたいと思います。皆様にはそれだけの力が備わっているはずです。そして多くの先輩達がそれを実証しています。自信をもって力強く歩みを進めてください。お茶の水女子大学はこれからも皆様を応援しています。

本日ご卒業の507名の皆様の将来が輝かしいものとなることを期待し、信じ、ご卒業を心からお祝いいたします。
本日はおめでとうございます。

  平成24年3月23日

お茶の水女子大学長
羽入 佐和子