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2013年4月4日更新
新入生の皆様、入学おめでとうございます。
ご家族はじめ関係の皆様に謹んでご入学のお祝いを申し上げます。
また、御来賓の皆様には、臨席をいただきまして心から感謝申し上げます。
今年度、516名の新入生をお迎えし、皆様とともに、お茶の水女子大学の歴史に新たな1ページを記すことを嬉しく思います。
お茶の水女子大学では、グローバルに活躍できる女性リーダーの育成に、今最も力を入れています。それは、国際性を身につけるための教育と、リーダーシップ教育の二つの要素からなります。
前者については、昨年度、文部科学省の「グローバル人材育成推進事業」に採択され、それを機に国際化教育の体制を整備し強化しています。この事業を全学的に展開している国立大学は、お茶の水女子大学を含めて全国で四大学のみです。本学では、語学教育を強化するとともに、学生が積極的に海外経験できるように留学制度を拡大させています。
また、リーダーシップ教育は国立の女子大学の重要な役割であると考えています。それは、リーダーを目指す人のための教育というだけでなく、将来リーダーという役割を課せられた時に備えての教育といってよいかもしれません。多くの場合、自らが希望してリーダーに成るというよりむしろ周囲から求められるように思うからです。
そこで、本学のリーダーシップ教育では、「知性」、「心遣い」、「しなやかな強さ」を理念としています。
高等教育機関で学ぶ者には、確かな知識を身につけ、それを基盤としながら、新たな知を追求することがまず必要です。その上でさらに他者への配慮ができ、自信をもって、多様な在り方や考え方に対処できる力を身につけてほしいと考えています。
国際的な場面で活動する場合にも、リーダーシップを発揮する際にも、他者と共に在ることを前提に、それぞれが、状況に応じて、何をどう考え、如何に振舞うか、そしてこれらを適切に判断できる知的能力を身につけることが大学時代になすべき重要なことであると思います。
ところで、今とくに女性の社会的活躍が強く期待されています。それは、一つには、国際的にみて、日本では、女性が意思決定過程に関与している割合が著しく低いという事実に基づくものです。管理職に占める女性の割合は10%台(H23年12.4%)です。女性の大学進学率が45%を超え、10年前に既に30%に達していたことを考えても、この割合は低いといわざるを得ません。そこで国は2020年までに、女性が意思決定過程に参加する割合を30%にするという数値目標を設定しました。この数値は、大学進学率から判断しても、達成不可能な数字ではないはずです。
そしてお茶の水女子大学は、最も伝統のある国立の女子大学として、これまで以上に女性が将来社会的に活躍するための教育を担う使命があると考えています。それが、リーダーシップ教育であり、グローバル人材育成推進事業です。
女性の社会的活躍が必要とされているもう一つの理由は、数値的な問題以上に、女性の活躍が、社会に新しい視点を加え社会の多様化を促し、社会を活性化させ社会に豊かさをもたらすきっかけになるという期待からでもあります。
本学の学部教育では、社会的活動の要となる知識の基礎や基盤を修得するための教育改革を実行してきました。それは、「21世紀型文理融合リベラルアーツ教育(新しいウインドウが開きます)」と「複数プログラム選択履修制度(新しいウインドウが開きます)」です。文系理系という学問の区別を超える新たなリベラルアーツ教育によって、具体的な問題を多角的に分析する手法を学び、その上で、学生各自が主体的にプログラムを選択することで、専門を深め、隣接する専門分野に触れることが可能な教育システムです。
今年本学を卒業した学生が、「謝辞」の中でこの大学の学部の教育について次のように述べていました。
「お茶の水女子大学のリベラルアーツ科目は、1,2年次の私にとって、とても魅力的なものでした。各分野の先生方から、学問の面白さや奥深さを教えていただき、また、学生から多くの刺激を受けました。この時に触れた様々な学問の基礎知識や考え方は、物事を広く見ながら深く考えるという点で、その後の専攻での学びや卒業論文作成の際に、私を大いに助けてくれました。」
本学の教育方針について学生がこのような感想を持って卒業されたことは大きな歓びです。
今、私たちを取り巻く課題は複雑であり、それに対処するためには、広く複眼的な視点と同時に深く確かな専門的知識が必要です。皆様がこの大学での学びを通して、それぞれに新しい観点を獲得し、鋭い分析能力と、柔軟で的確に判断する力を練磨してほしいと思います。
本学には次のような日本で最も古い校歌がありますが、この歌には本学の教育の基本的な指針が示されています。それは、
みがかずば 玉もかがみも なにかせん
学びの道も かくこそありけれ
というものです。
本学は、今から138年前に、国によって設置された東京女子師範学校を前身とする女性のための教育機関です。創設時の校舎は現在の御茶ノ水駅近くの湯島にありました。当時「お茶の水の学校」と呼ばれていたことが、現在のお茶の水女子大学の名前の由来といわれています。湯島の校舎は1923年の関東大震災で焼失し、その9年後(1932年)、今からおよそ80年前にこの地に新たに建設されたのが大学の本館です。
こうした経緯から、この講堂がある大学本館は耐震性に優れ、また不燃性を考慮した鉄筋コンクリート造りになっています。また、外壁には当時流行のスクラッチタイルが使われ、建物の入り口には、国会議事堂の入口の床と同じデザインで、質の良い国産の大理石が敷かれています。このことは本学に対する社会的期待を意味しているともいえますし、この期待に本学は応え続けてきました。
正門、附属幼稚園の建物、この本館と講堂は、国の有形登録文化財に登録されていますが、とくに「徽音堂」と名付けられたこの講堂は、本学での「学び」を象徴する空間であり、附属学校から大学院まで、学ぶことを志す多くの人々を受け入れ、そして社会へと新たな歩みを進める起点にもなっています。
大学での「学び」は、単に知識を享受するだけではなく、知を創造することを求めます。「知は力である」あるいは「人間の知識と力はひとつである」ともいわれますが、知識を力となすために、私たちには物事を根本から問い直す姿勢も必要です。確かな知識を基盤とし、その上で既存の知識を問い直すこと、そのために多様なものの見方を身につけること、そうして新たな知を創りあげること、これが大学での学びの姿勢です。
この大学で学ぶ人々には、社会の動きに対して敏感であってほしいと思っていますが、それは、この大学に寄せられている期待に応えるためでもあり、またそれ以上に、皆様がそれぞれに、「自らの知を力として」社会に発信し社会をリードすることが真に豊かな社会を築くことにつながると考えるからです。
今日から皆様がこのキャンパスで豊かな学生生活を過ごされ、そして、知を鍛え磨き、知的な力を備えた人間として成長されることを心から期待しています。
重ねて皆様のご入学をお祝いし、告辞といたします。
まことにおめでとうございます。
平成25年4月4日
お茶の水女子大学長
羽入 佐和子