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2014年7月19日更新
本日はお出でいただきまして有難うございます。
三日間にわたって、この講堂を中心にopen campusを行います。
この講堂は、「徽音堂」とも呼んでいますが、入学式や卒業式など、大学の重要な行事を行う場です。学生がここから大学での学びを開始し、専門的な知識を身につけて、社会へと新たな歩みを始める場であり、本学の学びを象徴する空間と言えます。
今日は短い時間ではありますが、お茶の水女子大学の教育の一端に触れ、また、キャンパスの雰囲気を少しでも味わっていただけましたら幸いです。
お茶の水女子大学は、1875年(明治8年)に、お茶の水に創設された東京女子師範学校を前身としています。創設された場所は現在の御茶ノ水駅の前、東京医科歯科大学があるところです。その校舎が今から91年前、1923年の関東大震災で焼失し、その後の新たな都市計画に基づく区画整理もあって、1932年(82年前)にこの大塚にキャンパスを移しました。
大学の名前は東京女子師範学校から女子高等師範学校へ、そしてさらに、奈良に女子高等師範学校ができたことから、東京女子高等師範学校へと名前を変えましたが、新制大学になるにあたって、創設の場所で「お茶の水の学校」と呼ばれていたことから「お茶の水女子大学」と命名された、と本学の資料には記されています。
この大学は、国によって設置された最初の女性のための高等教育機関であり、この大学で学びリーダーとして社会的に活躍する多くの女性を育成してきた伝統があります。
創設の主旨は、男性と優劣の差のない教育を女性も受けられるようにすることでした。当時の文部卿木戸孝允の布達には、「女子の教育が男子と優劣の差が生じることのないよう女子師範学校を設ける」とあります。
この理念のもとに創設された本学は、来年、創立140周年を迎えます。そして今、お茶の水女子大学の教育は、「女性の力を、もっと世界に。」という標語の下、グローバルな視点をもってリーダーシップを発揮することのできる女性を育成することを目指しています。
そのために、本学の学部教育では次のような四要素を備えています。
それは、文理融合リベラルアーツ教育と複数プログラム制の専門教育、グローバル教育とリーダーシップ教育です。
それぞれについては、これからご説明し、また大学案内にも記されていますが、言い換えると、理系や文系という学問の区別を前提にすることなく身近な問題を追及する方法を広く学んで、柔軟な考え方を身につけ、そのうえで、学生一人一人が主体的に専門の学び方を選ぶことです。
さらに、こうした専門教育に加えて、グローバル教育とリーダーシップ教育があります。
グローバル教育については、とくに2年前の2012年に、文部科学省の事業である「グローバル人材育成推進事業」に採択いただきました。それを大きな契機として、グローバルな視点をもって社会で活躍できる女性を育成することを強化しています。
このプログラムで目指しているのは、語学力に加えて、多様な文化や人々の多様な在り方を理解することができる能力を身につけることです。世界には多様な文化があり、人々の生き方はさまざまです。そのような状況を知り、また未知の場に身を置くことによって、はじめて気づくことも多くあるはずです。そこで、学生には海外研修の機会を多く用意しています。また、そのために、本学はいち早く四学期制を導入しました。
グローバル教育に加えて、リーダーシップ教育にも力を入れています。
いま、女性が社会的に活躍することが強く望まれています。それは、経済効果を生むからだけではなく、新しい視点を社会に提案することによって質的な豊かさをもたらす、と考えられるからだとも言えます。この大学で学ぶ学生には、単に社会で働き経済活動をするというだけではなく、新しい時代や新しい世界を開拓する役割を担ってほしいと思います。それが本学のリーダーシップ教育の目的です。
力によって組織を導くというより、考え方や発想や主張が組織を動かす、そのような力を本学の学生には身につけてほしいと思っています。
これら四つの要素、つまり、リベラルアーツ教育とプログラムを選択する専門教育、グローバル教育とリーダーシップ教育を支えている本学の教育の理念は、「知識」「見識」「寛容」です。
大学という高等教育の場では確かな知識を身につけることが大前提です。そしてそれを基にして適切な判断ができることが「見識」です。さらに、さまざまな考え方や在り方を理解しうる柔軟な姿勢が「寛容」です。
「知識」と「見識」と「寛容」を身につけて、リーダーシップを発揮できる人を育てるのが、この大学の使命です。
これまでご説明したのは、制度的な教育の特色ですが、そのほかの本学の特色を三つご紹介しておきます。
一つは、大学の規模が小さいこと、です。
規模が小さいことは、学生同士、あるいは学生と教員の距離が近いことを意味します。また、それは学生一人一人の存在感が大きく、それだけ個性が発揮しやすいといえます。主体的に行動する学生が多いのはそのためかもしれません。
二番目の特色は、伝統的に、先駆けとなる女性を多く輩出してきたことです。
例えば研究の分野では、日本で初めての女性の理学博士や農学博士、日本で初めて帝国大学に入学した女性、日本で初めて国際的に活躍した女性、のいずれもが本学で学んだ人たちでした。
また教育機関を創設した人々もいます。
その代表は、本学の卒業生の会である桜蔭会が関東大震災の翌年に開校した、桜蔭学園といえます。
そしてこの伝統は今でも確かに受け継がれているようです。
三番目の特色は、女子大学であることです。
女子大学は、共学と異なって、女性が主役です。ここでは、何事も、自分が主導することができますし、それが求められます。
社会的に活躍している女性にお茶大生が多いのはなぜか、と聞かれることがよくあります。正確な理由は定かではありませんが、女子学生が常に主役で、発言する場面が多いことは一つの要因のようにも思います。
もちろん、教育の水準が高いこともあります。
それは、優れた研究者が教育に当たっていること、そして大学院に進学する学生が理系ではおよそ7割にも達すること、つまり、大学院レベルの教育が基準になっているからかもしれません。
そのようなこともあり、昨年度からは、「博士課程教育リーディングプログラム」という新たなプログラムを開始しました。これは、産業界とも連携して、研究者としてだけではなく、企業でも活躍することのできる理工系の専門を身に付けた女性を育てようというプログラムです。とくに工学系の女性の割合が、現在10%程度でしかないことから、この割合をさらに高めようという意図もあります。
ですがそれは単に数の問題ではないといえます。
多様な考え方や多様な発想が、社会に新たな動きをもたらすことが期待されているからだと思います。
この大学は小さな大学ではありますが、学生には、「小さな大学で大きく学ぶ」ことを期待しています。立地にも恵まれ、また先生方はそれぞれの専門分野で大きなネットワークを持っています。大学としても、国内外に連携している大学が数多く存在します。学ぶ意欲のある学生とって、自らの可能性を引き出し、そして新しい世界を拓いてゆく力を身につけることのできる環境が整っている大学であると思います。
今日お出でいただいている多くの方々が、春にこの講堂から、新たに学生生活を始められますことを心から期待しています。
本日は、多くの皆様にお出でいただきまして、まことに有難うございました。
平成26年7月
お茶の水女子大学長
羽入 佐和子