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平成30年度 大学院入学式 学長告辞

2018年4月9日更新

296名の新入生の皆さま、ご入学おめでとうございます。お茶の水女子大学の教職員を代表して、お祝い申し上げます。
これまで、お嬢さまを支えて来られましたご家族やご関係の皆様にも、謹んでご入学をお祝い申し上げます。
また、御来賓の皆様には、お忙しい中、ご臨席を賜りまして、まことに有難うございます。学問?研究を志す新入生の行く末を、温かくお見守り下さいますよう、お願い申し上げます。

今朝早い時刻から、皆さまが、正門の門扉の前で写真を撮っていらっしゃる光景に出会いました。あの門扉は、第2次世界大戦の最中に、軍によって供出させられて、その後ずっと仮の門扉が取り付けられていたものですが、昨年、卒業生や教職員の方々のご寄附等によって、関東大震災後に大塚の地に本学が移転した当時の形に復元されたものです。丁度、供出当時に学生でいらした卒業生の方から、「新しく門扉が復元されて、涙が出るほど嬉しかった」とのお言葉を頂き、私たちも、卒業生や教職員の方々の70年以上もの念願が叶って本当に良かったと、とても嬉しく思いました。皆さまは、門扉が復元されてから記念すべき最初の入学生です。

今年度は、大学院博士前期課程および後期課程に、ハンガリー、アフガニスタン?イスラム共和国、タイ王国、中華人民共和国、大韓民国、ロシア連邦、ウクライナの7カ国から42名の留学生をお迎えしました。日本の国旗、本学の校旗と共に、留学生の方々のお国の国旗も掲げて、皆さまのご入学を心から歓迎させて頂きます。

毎年、学問?研究の道を究めたいとの意欲を持って、本学に留学してきて下さる皆さまには、学問?研究を追究すると共に、日本の文化に触れ、また友人たちをはじめとする多くの人々との触れ合いの中で、異なった生活や考え方、価値観の違いを経験することで、多様性を大事にすることを学び、さらにそれらを大いに楽しんで頂きたいと思います。
日本で生まれ育った皆さまも、留学生の方々と様々な機会を通じて親しく交流し、友情を育んで、それぞれの多様で豊かな魅力を知り、大きく成長して頂きたいと願っています。

皆様もご存知の様に、お茶の水女子大学は、日本初の女性のための官立高等教育機関として1875年に設立されましたが、それ以来140年余に亘って、本学には「教養と専門性を備えた女性リーダーの育成」が期待され、数多くの優れた卒業生を国の内外に送り出して来ました。そして、女性の自立と社会的活躍を支援し、社会の知的基盤の充実に貢献してきました。

女性が学術研究に従事することさえ難しかった時代から、本学の卒業生は海外に羽ばたいて活躍して来ました。わが国の女性科学者として初の女性理学博士となった保井コノさんは、様々な困難に遭遇しながらも、国の内外で研鑽を重ね、本学の教授として後進の教育に貢献した方ですし、はじめて女性の入学が許可された東北帝国大学で最初の女子学生となり、後に女性理学博士となった黒田チカさんも、多くの困難を乗り越えて研究を推進し、本学の教授となって若い女性たちを育てた方です。また、第二次世界大戦前後の極めて困難な時期に、フランスで国際的な原子物理学者として活躍した湯浅年子さんは、本学の教授としても活躍され、日本とフランスの架け橋として、研究者交流のために尽力されました。学生としては勿論、正規職員としても女性を受け入れなかった帝国大学で無給の副手として研究を続け、初の女性農学博士となった辻村みちよさん、豊富な海外留学の経験を経てシャム国の教育に尽力し、その後東京女子大学の2代目学長を務めた安井てつさん、アメリカ留学の経験を活かして女性の権利向上を広く訴えると共に、日中教育文化交流に尽力し、さらに桜美林学園の創設発展に貢献した小泉郁子さんなどを先駆けとして、多くの科学者?研究者が育ち、国の内外で活躍しています。

本学では、今お話した5名の大先輩たちのお名前を冠した「お茶の水女子大学賞」を創設し、それぞれの分野で頑張っていらっしゃる本学出身の研究者の方々を顕彰しています。2017年度は、湯浅年子賞は残念ながら候補者がいらっしゃいませんでしたが、保井コノ賞は東京農工大学特任准教授の柳澤美穂さん、黒田チカ賞は理化学研究所研究員の秋山央子さんとテキサス大学博士研究員の内川瑛美子さん、辻村みちよ賞は授乳服の開発で著名なモーハウス代表取締役の光畑由佳さん、小泉郁子賞は日本大学教授の佐藤至子(ゆきこ)さんが受賞されました。 受賞された方々は、いずれも意欲溢れる素敵な研究者であり、起業家です。 
本日入学された皆さまの中からも、きっと、近い将来、これらの賞を受賞される方が出て下さることでしょう。

また、本学は、国境を越えて研究と教育文化を創造すること、そして、世界中の全ての女性たちの夢の実現を支援することを目指して、『学ぶ意欲のある全ての女性にとって、真摯な夢の実現の場として存在する』との標語を掲げ、学びたくても学ぶことのできない環境にある開発途上国の女性たちをも含めて、国籍や年齢を問わず、その成長と資質能力の開発を支援する活動を推進しています。
これは、本学が、世界の多様な文化と異なる価値観や考え方を持った人々と深く理解しあい、その違いを受け入れて、協働する中で、自らを成長させていくことのできる学園でありたいとの決意の表われです。
そして、真の意味での学園のグローバル化をさらに推進するために、来年3月初旬には、国際交流?地域貢献?世代間交流の3つの目的をもつ集いの場としての「国際交流留学生プラザ」が、竣工予定です。

大学院では、学部で学んだことを基盤として、さらに深い専門性を持った学問を追究していくことになります。先人が構築した概念や理論、あるいは手法を学んで使いこなすことは勿論ですが、独自性の高い理論や概念、手法などを新たに創造し、学術?研究の発展を生み出していくことを目指して頂きたいと思っています。それは心躍る作業であると同時に、皆さま自身の資質?能力を大きく高める作業になるでしょう。そして、そこから得られた新しい活力や創造力を、社会のために役立てて頂きたいと思います。

本学の大学院では、さらに、分野横断的な視点に基づく教育と研究を進めることで、時代をリードし、日本と世界の様々な課題に取り組み、その解決に向けて貢献出来る人材を育てることを目標として、これまでに、本学独自の多様な教育?研究のプログラムを構築し、実践してきました。
現在は、女性博士人材育成のための大学院博士課程教育リーディングプログラムなどを推進して、学術?研究のみならず、企業や行政、国際機関などの広く多様な領域で、力を発揮できる女性を育てるために努力しています。
本学大学院の修了生は、大学、国?公立の研究所、企業、初等?中等学校、府省や県庁?市役所等の行政機関、裁判所などの司法機関、テレビ局や新聞社などの報道機関、独立行政法人や社会福祉法人など、多様な職場で活躍していますが、これからは、国際機関や海外の大学や研究所、企業などで活躍する人たちが益々増えることでしょう。

本日入学される皆さまの将来への想いは、さまざまであろうと思います。研究者としての道を歩もうと考えている方も、専門的な能力を身につけて社会に出て行こうと考えている方もいらっしゃるでしょう。
皆さまが将来どんな道に進むとしても、失敗にめげない強い心を持って、それぞれの道を歩んで頂きたいと思います。「踏みならされた易しい道」と「まだ踏み出したことのない険しい道」を選択する機会に遭遇することも多々あると思いますが、その際に、皆さまには、誰もその先を知らない「険しい道」をあえて選択される勇気と冒険心を持って頂きたいと思っています。皆さまが次世代の担い手であるからこそ、大きな転換期にある「現在」にしっかりと足を踏みしめながら、人生において貴重な、そして贅沢なこの時期を有効に活用して頂きたいと思います。

ご自分の可能性を、「現在」の時点ですっかり見通すことができるような、狭い範囲に閉じ込めないで下さい。未来を切り拓く自分自身の力を信じて、さらなる高みを目指す粘り強い努力で、皆さまの可能性を花開かせて頂きたいと願います。
皆さまが、本学において充実した学びと研究生活を過ごされ、自信と誇りを持って、学問の発展のために貢献して下さることを願っています。
そして、世界に溢れている、貧困、食糧難、環境破壊、エネルギー資源の枯渇、安全と平和の危機など、様々な課題に向き合って探究を続け、幸せな社会を作るために貢献して下さることを、心から期待しています。

こころと身体の健康を大切になさって、学園生活を思い切り楽しんで下さい。これからの皆さまの実り多い研究生活を心からお祈りして、お祝いの言葉を結びます。
ご入学、まことにおめでとうございます。

2018年4月4日
お茶の水女子大学長
室伏 きみ子