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2019年4月4日更新
284名の新入生の皆さま、ご入学おめでとうございます。お茶の水女子大学の教職員を代表して、心からお祝い申し上げます。
また、これまでお嬢さま達を支えて来られましたご家族やご関係の皆さまにも、謹んでお慶びを申し上げます。
来賓の皆さまには、お忙しい中ご臨席頂き、学問?研究を志す新大学院生をお励まし頂けますこと、まことに有難うございます。
正門を入っていらっしゃった際に、新しい芸術的な建物に目を奪われた方もいらっしゃることと思います。本学の明るい未来を象徴するような美しい姿が印象的な、「国際交流留学生プラザ、Hisao & Hiroko TAKI PLAZA」と名付けられたこの建物は、先週3月28日に竣工式を迎えました。このプラザは、本学に集う人々の20年来の夢であった、国際交流、世代間交流、地域交流の場として活用される施設ですが、本学の学長特別顧問をお務め下さっている「ぐるなび」創業者の滝久雄さまご夫妻からの多額のご寄附によって建設の運びとなったもので、東京オリンピック2020に向けて建設中の国立競技場の設計者でいらっしゃる隈研吾さまが設計して下さいました。この中には、日本が誇る世界的な芸術家でいらっしゃる宮田亮平さま、中島千波さま、日比野克彦さまの手による美しいパブリックアートが設置されています。
また、大学と附属校園の数多くの同窓生、ご関係の皆さま、新旧の教職員からのご寄附によって、同窓会コモンズを併設することが出来ました。
大学と大学院の同窓会である「桜蔭会」の事務室や会議室なども、コモンズに設置されて居ます。そこでは、同窓会の先輩たちが、卒業生の様々なネットワークを通じて、若い方々の相談に対応し、その活躍を多方面から支援して下さいます。明るく美しいプラザを利用すると共に、時には同窓会コモンズを訪ねて、先輩たちのネットワークを活用して頂きたいと思います。
皆さまは、プラザ竣工後、記念すべき最初の大学院入学生です。
今年度は、大学院前期課程および後期課程に、中華人民共和国、大韓民国、タイ王国、ベトナム社会主義共和国、モンゴル国、イラン?イスラム共和国、アフガニスタン?イスラム共和国、スロバキア共和国、タジキスタン共和国、エジプト?アラブ共和国、アメリカ合衆国の計11か国から、53名の留学生をお迎えしています。皆様が参集されているこの講堂には、本学の校旗、日本の国旗と共に、国境を越えて本学に学びの場を求めて下さった留学生の方々を歓迎して、そのお国の国旗を掲げてあります。
留学生の皆さまも、日本で生まれ育った皆さまも、お茶の水女子大学の一員として、学問?研究を追究することは勿論ですが、異なる国籍、年齢、文化、宗教など、多様な背景を持った人々と触れ合い学びあう中で友情を育んで、それぞれの多様で豊かな魅力を知り、大きく成長して頂きたいと願っています。そして、「多様性を尊重する」ことの大切さ、人々が幸せに暮らせる平和な世界を作ることの大切さを学んで頂きたいと思います。
皆さまもご存知の様に、お茶の水女子大学の歴史は、1875年に日本初の女性のための高等教育機関「東京女子師範学校」として東京「御茶ノ水」の地に設立されたことに始まります。 1949年に新制大学としての「お茶の水女子大学」が発足し、1963年に大学院修士課程が、そして1976年には博士課程が設置されました。これらの大学院課程は、いずれも、女子大学に設置された日本初の課程です。
創立以来、本学には「広い教養と深い専門性を備えた女性リーダーの育成」が期待され、数多くの優れた卒業生を社会に送り出して来ました。現在も、学問?研究を通じてそれぞれの夢の実現を目指し、社会に貢献したいと願う若い女性たちが、本学大学院で研鑽を積んでいます。
女性が社会に進出することさえ難しい時代から、本学の卒業生は国の内外で活躍して来ました。女性研究者として、当時は極めて困難であった海外留学を果たし、わが国初の女性理学博士となられた保井コノさん、女性に門戸が開かれていなかった帝国大学に初めて入学し、理学博士となられた黒田チカさん、また、第二次世界大戦前後の極めて困難な時期に、フランスで国際的な原子物理学者として活躍し、日仏の研究者の架け橋としても活躍された湯浅年子さん、女性を受け入れなかった帝国大学で無給の副手として研究を続け、初の女性農学博士となられた辻村みちよさん、豊富な海外留学の経験を経てシャム国の教育に尽力され、その後東京女子大学の2代目学長を務めた安井てつさん、海外留学の経験を活かして女性の権利向上と日中教育文化交流に尽力された小泉郁子さんなどを先駆けとして、多くの科学者?研究者が育ち、国の内外で活躍しています。そして、その方々は、本学で教鞭を執り、若い人たちを育てて下さいました。
また、幾多の苦難を乗り越えて、わが国初の女医となった荻野吟子さんも、本学の卒業生です。
本学では、今お話した大先輩たちのうち、5名の方のお名前を冠した「お茶の水女子大学賞」を創設し、それぞれの分野で頑張っている本学出身の研究者の方々を顕彰しています。本年度は、保井コノ賞を、産業技術総合研究所主任研究員の沓掛磨也子さんと、理化学研究所放射光科学研究センター研究員の南後恵理子さんに、黒田チカ賞を、東京医科歯科大学統合研究機構研究基盤クラスター生命倫理研究センター助教の甲畑宏子さんと、愛知学院大学薬学部薬化学講座講師の松村実生さんに、湯浅年子賞を、パリ大学南校線形加速器研究所CNRS主任研究員の洪江美さんに、辻村みちよ賞は本学名誉教授の牧野カツコさんに、そして小泉郁子賞は武蔵大学社会学部教授の中西祐子さんにそれぞれ差し上げました。受賞された方々は、いずれも意欲溢れる素敵な研究者です。
本日入学された皆さまの中からも、これらの賞を受賞される方が出て下さることを、期待しています。
大学院では、学部で学んだことを基盤として、深い専門性を持った領域で研鑽を積み、独自性のある成果を生み出していくことになります。先人によって構築された概念や理論、手法などを学んで、それらを使いこなすことは大切なことではありますが、そこにとどまることなく、独創的な理論や概念、手法などを新たに創造し、学術?研究の発展を生み出していくことを目指して努力して頂きたいと思っています。それは心躍る作業であると同時に、皆さま自身を大きく高める作業になるでしょう。
本学の大学院には、皆さまが新しいことにチャレンジするための環境が整えられています。その環境を最大限に活かして、知的探究を楽しみ、それぞれの資質?能力を高めるための努力を続けて頂きたいと思います。その努力の中から、新しい活力や創造力が生まれ、自分自身に対する自信や誇りが生まれるのです。
本日入学される皆さまの中には、将来、研究者としての道を歩もうと考えている方も、専門的な能力を身につけて社会に出て行こうと考えている方もいらっしゃるでしょう。ただ、将来どんな道を選ぶとしても、失敗にめげない強い心を持って、それぞれの道を歩んで頂きたいと思います。そして、多様な学びを選択すること、失敗することが最大限許されている大学院という環境の中で、できるならば、皆さまには、誰もが予想できる道ではなく、誰もその先を知らない「険しい道」を選択される勇気と冒険心を持って頂きたいと思っています。
次世代の担い手である皆様には、人生において貴重な、そして贅沢なこの時期を有効に活用して頂きたいと思います。そして、ご自分の可能性を狭い範囲に閉じ込めないで下さい。未来を切り拓く自分自身の力を信じて、さらなる高みを目指す強い意志を持って、可能性を十分に花開かせて頂きたいと願います。
皆さまが、学問や教育の発展のために貢献して下さることを願うと共に、現在の世界に溢れている、貧困、食糧難、環境破壊、エネルギー問題、安全と平和の危機など、様々な課題に向き合って、生涯にわたって学びと探求を続けて下さることを心から願っています。
これからの皆さまの実り多い研究生活を心からお祈りして、お祝いの言葉を結びます。
ご入学、まことにおめでとうございます。
2019年4月4日
お茶の水女子大学長
室伏 きみ子