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2018年3月15日更新
1. 日本産バフンウニのゲノムを解読し、データベースHpBaseにおいてその情報を公開します。
2. 北米地域以外に生息するウニとしては、初めてゲノム情報が明らかになりました。
3. HpBaseを利用しての発生生物学?細胞生物学の発展に加え、進化生物学分野や教育分野における情報の提供源としての利用価値が期待されます。
筑波大学 生命環境系 谷口俊介准教授(下田臨海実験センター)は、情報?システム研究機構国立遺伝学研究所 遺伝情報分析研究室 池尾一穂准教授、金城その子研究員、お茶の水女子大学 湾岸生物教育研究センター 清本正人准教授、広島大学 大学院理学研究科 山本卓教授との共同研究により、バフンウニ(Hemicentrotus pulcherrimus)のゲノム配列を解読しました。
バフンウニは北海道南端より南の地域の海岸線でよく見られるウニの一種であり、地域によっては貴重な漁獲対象物となっています。また、その採集のしやすさ、卵や精子といった配偶子取得の容易さから、発生生物学、細胞生物学等の優れた研究材料としてだけでなく、動物の発生を学ぶ教育現場においても、我が国では長い間利用されてきました。本研究では、バフンウニのゲノム配列を解読し、研究?教育の過程で利用できるデータベース「HpBase」(http://cell-innovation.nig.ac.jp/Hpul/)を作成しました。
本研究の成果は2018年3月13付で日本発生生物学会の機関誌「Development Growth & Differentiation」にて先行公開されました。データベースは3月19日公開の予定です。
* 本研究は、AMEDおよび文部科学省の助成金によって実施されました。
ウニは日本人にとって有用な海産食材であるとともに、磯遊び等でよく目にするなじみ深い動物の一種です。また、その成体の採集のしやすさ、配偶子(卵?精子)取得の容易さ、胚?幼生の体が透明であること等から、発生生物学?細胞生物学の研究教育分野において、長い間、世界中で利用されてきました。ゲノム?遺伝子配列の情報が必須である現在の生物学においては、2006年に北米産のアメリカムラサキウニ(Strongylocentrotus purpuratus)のゲノム配列が公表されてから(参考文献1)、その情報をもとに研究が発展してきました。その一方で、日本でのウニ研究において主に使用されるバフンウニ(Hemicentrotus pulcherrimus)や、ヨーロッパにおけるヨーロッパムラサキウニ(Paracentrotus lividus)のゲノム情報はこれまで報告されておらず、種の違いによるDNA配列の違いが、時には研究進行上の妨げになってきました。その点を克服するため、今回、本研究グループはバフンウニのゲノム配列を明らかにすると共に、その情報を含有したデータベース「HpBase」を作成し、公開しました。
静岡県下田市にある、筑波大学下田臨海実験センター周辺でとれたオスのバフンウニ一匹の精子からゲノムDNAを抽出し、次世代シーケンス技術(注1)を用いてゲノムの塩基配列を決定しました。また、1ペアのオスメスから得られた卵と精子を用いて受精し、発生させた胚のトランスクリプトーム解析(注2)を、受精後2時間、14時間、21時間、43時間の4つのタイミングにおいて行いました。
得られた情報をもとに、国立遺伝学研究所において開発?提供している次世代シーケンサー解析プラットフォームMaser(注3)を用いて、ゲノム構造や遺伝子配列予測の解析等を行いました。それらの結果から、バフンウニのゲノムは、約800メガベースあり、約2万5千個程度の遺伝子を含んでいることがわかりました。今後の追加解析により、これらの数値は増減する可能性がありますが、現時点では、アメリカムラサキウニのゲノム解析で得られたデータと非常に類似した結果になっています。
今回解析したバフンウニのゲノム情報はデータベース「HpBase」(http://cell-innovation.nig.ac.jp/Hpul/)にて公開されています。HpBaseは以下の6つの項目から構成されています(図)。
1) ホーム
2) 遺伝子検索(特定の遺伝子を遺伝子名、遺伝子ID等から検索できます)
3) ホモロジー検索(特定の遺伝子配列を基に、類似の配列を持ったゲノム配列、遺伝子配列を検索できます)
4) ゲノムビューアー(ゲノム内における特定の遺伝子の位置等、ゲノム構造を見ることができます)
5) データ(解析に用いたシーケンスデータ等をダウンロードできます)
6) プロトコール(バフンウニを用いた実験手法をダウンロードできます。また、研究者は自身の実験手法を自由にアップロードできます)
データベース訪問者は、それぞれの研究や教育の現場において、これら全てを自由に活用できます。また、情報は今後の追加解析により更新され続けて行く予定です。
日本を含むアジア地域において、そこに生息するバフンウニのゲノム配列が明らかになり、誰もが利用できるデータベースになっていることは、発生生物学?細胞生物学だけでなく、進化生物学分野においても、利用価値が高いものになると思われます。また、今後シーケンス技術の発展により、誰もが好きな生物のゲノム情報やトランスクリプトーム情報を、簡便に取得できる時代が来ることは確実です。その際に、シーケンス情報の羅列をデータとして残すだけでなく、全ての人が利用できるデータベースの形として残すことが重要になってきます。本研究成果で示したように、サンプルおよびデータの取得?解析?公開までの一連の流れが、未だゲノムが解明されていない実験対象動物において展開することが期待されます。
本研究のゲノム解析で精子を利用したオスの子孫が、筑波大学下田臨海実験センターおよびお茶の水女子大学湾岸生物教育研究センターにおいて維持されているため、それらを用いた研究や教育が展開することが期待されます。
注1) 次世代シーケンス技術:DNAを構成する塩基を同時並行的に読むことができ、膨大な量の配列を一度に決定することができる。現在主流のシーケンス技術。
注2) トランスクリプトーム解析:発現しているRNA配列全てを決定する解析。注1)の次世代シーケンス技術を利用する。
注3) Maser:国立遺伝学研究所により開発?提供されている次世代シーケンサーデータの解析ツール(http://cell-innovation.nig.ac.jp/maser/#pf_maser)。
Sodergren, E. et al., 2006. The genome of the sea urchin Strongylocentrotus purpuratus. Science, 314(5801), pp.941–52.
HpBase: a genome data base of a sea urchin, Hemicentrotus pulcherrimus
(HpBase: バフンウニゲノムのデータベース)
Sonoko Kinjo1, Masato Kiyomoto2, Takashi Yamamoto3, Kazuho Ikeo1, Shunsuke Yaguchi4
Development Growth & Differentiation
DOI: 10.1111/dgd.12429
谷口 俊介 (やぐち しゅんすけ)
筑波大学 生命環境系 准教授 (下田臨海実験センター)
〒415-0025 静岡県下田市五丁目10−1
電話:0558−22−6716
E-Mail:yag@shimoda.tsukuba.ac.jp