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病原菌に対する植物細胞の防御システムを解明

2018年12月17日更新

?細胞壁関連酵素を集中輸送?

発表者

  • 植村 知博(お茶の水女子大学 理系女性教育開発共同機構 准教授)
  • 中野 亮平(マックスプランク植物育種学研究所 研究員)
  • 上田 貴志(基礎生物学研究所 教授)
  • 中野 明彦 (理化学研究所 チームリーダー)
  • Paul Schulze-Lefert (マックスプランク植物育種学研究所 部門長)

研究のポイント

  • ゴルジ体独立型TGNが分泌経路で機能することを解明
  • 植物の病原菌侵入に対する防御機構にゴルジ体独立型TGNが関与することを発見
  • 細胞壁関連因子の局所的輸送が病原菌侵入を防ぐことを発見
  • 植物の耐病性を向上させる開発技術への応用が期待される

概略

真核細胞内には様々な細胞小器官が存在し、トランスゴルジ網(trans-Golgi Network, TGN)はタンパク質の細胞内輸送の分岐点として重要な役割を果たしている。お茶の水女子大学の植村知博准教授、マックスフ?ランク植物育種学研究所(ト?イツ)の中野亮平研究員と Paul Schulze-Lefert 部門長、基礎生物学研究所の上田貴志教授,理化学研究所の中野明彦チームリーダーらの国際共同研究ク?ルーフ?は、植物で発見されているゴルジ体から独立したTGN(ゴルジ体独立型TGN)が分泌経路で機能し、病原菌の侵入防御に大きく寄与していることを発見した。この発見により、植物の耐病性を向上させる開発技術への応用が期待される。

一般向けの詳細

真核生物の細胞内には、異なる機能をもった膜で包まれたさまざまな細胞小器官が存在しています。トランスゴルジ網(trans-Golgi Network, TGN)は、ゴルジ体に隣接する網目状の構造体で、小胞体で合成されたタンパク質がゴルジ体へ運ばれた後、最終目的地(細胞外への分泌や液胞など)に向けてタンパク質の選別を行っていると考えられています。すなわち,TGNは細胞内タンパク質輸送の中心に位置する分岐点となっており、いわば物流における配送センターのような重要な区画であると考えられています。我々の研究グループは2014年に超解像ライブイメージング技術により、植物にはゴルジ体に付随して存在するTGN(ゴルジ体付随型TGN)とゴルジ体から独立したTGN(ゴルジ体独立型TGN)の2種類のTGNが存在することを発見しました(図1)。このゴルジ体独立型TGNは現在のところ植物細胞でしかその存在の報告がなく、生理機能については全くの謎でした。

細胞内のタンパク質輸送においては、SNAREというタンパク質分子が、輸送小胞と細胞小器官膜の融合を担う実行因子としてはたらいています。それぞれの細胞小器官に特異的なSNARE分子が存在し、特異的な膜融合を制御すると同時に、細胞小器官のアイデンティティを規定していると考えられています。我々のグループは、シロイヌナズナのTGNの構造や機能を制御し分泌経路と液胞輸送経路の両方に関与するSYP4、TGNから細胞膜への輸送に関与するVAMP721、TGNおよびエンドソームから液胞への輸送に関与するVAMP727を発見していました。そこで、まず、ゴルジ体独立型TGNが細胞内のどの輸送経路ではたらいているかについて、分泌経路で機能するVAMP721および液胞輸送経路で機能するVAMP727のどちらがゴルジ体独立型TGNに局在しているかについて観察しました。その結果、ゴルジ体独立型TGNにはVAMP721が局在していたため、ゴルジ体独立型TGNは分泌経路で機能していることが示唆されました。

また、我々の研究グループはVAMP721が植物細胞へのうどんこ病菌侵部位へ局所的に局在することでうどんこ病菌の侵入を防いでいることを既に発見していました。うどんこ病は様々な作物に深刻な被害を与えている代表的作物病害のひとつで、その対策として薬剤防除が広く行われています。そのため,持続可能な農業開発にむけて、薬剤に依存せずに病害抵抗性を付与する手法の確率が急務とされています。そこで、ゴルジ体独立型TGNを可視化したシロイヌナズナを用いてうどんこ病菌感染実験を行ったところ、うどんこ病存在下ではゴルジ体独立型TGNの数が増加していることを見出しました。さらに,VAMP721の菌侵入部位への集積はゴルジ体独立型TGNの機能に依存していることも明らかにしました(図2)。このことから,シロイヌナズナは病原菌が植物細胞に侵入しようとしている時にゴルジ体独立型TGNを多くして分泌経路を活性化することで,病原菌の侵入を防いでいると考えられます。

そこで活性化した分泌経路によってどのような物質がVAMP721によって菌侵入部位へ輸送されているかについて、プロテオミクス解析をおこないました。野生型、syp4変異体(ゴルジ体独立型TGN形成に異常)、syp4vamp721二重変異体(syp4変異体の表現型が亢進)を含む6種類の植物から菌感染後にアポプラスト(植物組織内における細胞外の空間)を生化学的に単離し、タンパク質質量分析解析とバイオインフォマティクス解析をおこない、ゴルジ体独立型TGNやVAMP721は「細胞壁修飾関連酵素」の分泌に重要であることを明らかにしました。細胞壁は植物細胞の最外層にあたり,病原菌との相互作用において最初に防護壁として機能します。我々の今回の研究成果から、シロイヌナズナは病原菌の侵入に際して「細胞壁修飾関連酵素」を,ゴルジ体独立型TGNを介して局所的に分泌して自らの細胞壁を再構築することで、病害に対する抵抗性を強めていることが示唆されました。

本研究では、ゴルジ体独立型TGNが、分泌経路で機能し、「細胞壁修飾関連酵素」の分泌を介してうどんこ病菌に対する抵抗性に重要であることを発見しました。ゴルジ体独立型TGNの生理的意義についてはこれまでも知見がなく、本研究成果は、細胞生物学的な視点からみても画期的です。また、ゴルジ体独立型TGNの機能を向上させ効率よい「細胞壁修飾関連酵素」システムを構築することで病気に強い植物の開発にも繋がるものと期待されます。

発表論文

*Uemura,T., Nakano, RT., Takagi, J., Wang, Y., Kramer, K., Finkemeier, I., Nakagami, H., Tsuda, K., Ueda, T., *Schulze-Lefert, P. and Nakano, A.
“A Golgi-released subpopulation of the trans-Golgi network mediates protein secretion in Arabidopsis.”
Plant Physiol.  (2018年12月13日にオンライン版で公開)

参考図

  • 植物細胞内のタンパク質輸送網
  • ゴルジ体独立型TGNに依存したVAMP721の菌侵入部位への集積

問合わせ先

研究に関する問い合わせ先

お茶の水女子大学 理系女性教育開発共同機構 准教授 植村 知博
電話: 03-5978-5713
Email: uemura.tomohiro@ocha.ac.jp

マックスプランク植物育種学研究所 研究員 中野 亮平
電話: +49(0)221-5062310
Email: nakano@mpipz.mpg.de

マックスプランク植物育種学研究所 部門長 Paul Schulze-Lefert
電話: +49(0)221-5062350
Email: schlef@mpipz.mpg.de

取材に関する問い合わせ先

お茶の水女子大学 企画戦略課(広報担当) 本橋、小林
電話:03-5978-5105
Email: info@cc.ocha.ac.jp